ヨドバシカメラにアルバムかフィルムを買いに行ったときのことだ。あたしが買い物を終えて車に戻ってくると(路駐していた)あたしの車の前にサラリーマンが立っていてあたしが車に乗り込もうとすると近づいてきた。何か車の停め方に文句でも温かと思っていると、“デリコ”のタイヤケースの中に猫が入り込んでいるのだという。運転手が気がつかずに発進したら事だと思い、待っていたのだと。そういえば、小雨の煙る日で、彼は傘も差さずにあたしが帰ってくるのを待っていたのだ。彼も、何度か取り出したのだが、またすぐに入り込んでしまうのだという。優しい人だな、と思ったが、彼も実は野良猫を拾いすぎて、もう飼う余地が無い(多分奥さんの手前、と言うのがあるのだろう)と言い、仕方なく、あたしは車に乗せて、“久田”に連絡してみた。
新宿中央公園にでも捨ててこい!とうのが“久田”の指令だった。その心には“ごんちゃん”がいる所為で“おかく”が情緒不安定になってるじゃないか、と言う意味があったのは知っていたが…。
結局コンビニで猫カンを買い、水をつけて私はその子を車に乗せたまま、原宿に打ち合わせに行ってしまう。後に仲良しになる子供服のイラストを描いている根岸さんとスタイリストの黒須さんたちとの打ち合わせで、みんなこの猫を見にきたが、誰ももらってくれそうもない。
次は渋谷で店内撮影があり、小猫はハンドルの奥深くに入り込み、いくら呼んでも手を入れても取り出すことが出来ない。そのまま立ち会いのコピーライターの方と一所ににゃあにゃあいう車に乗って帰ることになった。彼も後に個人的におつきあいをするようになった伊藤氏である。
捨てることが出来ずに小猫を持ち帰ったあたしは“久田”に責められながら、なんとかしつけが出来たら誰かにもらってもらうという条件でこの猫をうちにいれた。
いつもカラー現像やプリントをしてもらっているパレットクラブのお姉さんが写真を見て欲しいといってくれた。まさしく、“アトム動物病院”に予防接種にいった帰りだったので本人を確認してもらい、話をつけようと“久田”に電話したら、あの子はもうあたしの子だという。人になんかやるもんかと。しつけているうちに完全に情がううつったみたいだ。簡単なヤツ。

お腹ぺこぺこのペコリーノ、略して“ぺこ”と命名。ちょっと舌がでている。新宿でルーズソックスを履いて、あんパンをやっていた子を拾ってきたという触れ込みになった。しかしなんであたしたちはこう簡単に猫を拾ってしまうのだろう?